スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【第八期中間SS】兆し

  無数の本棚が整然と並べられた図書館らしき場所。
中央は広場のようになっていて小さなテーブルと椅子が備え付けられている。
そこに黒衣を纏った少年が一人。

「いらっしゃい。まさか僕を“読める”人間がいたとはね。面白い。
まあ、どうやってここに来たのかは聞かないでおこう。
ここに“記されている”のは何て事のない退屈な話。
興味が無いのならそのまま引き返すと良い。
もし読んでいくのならそこに座ってよ。
ん?僕は誰かって?僕はフェイブル。この場所の主さ。
じゃあ始めようか。赤い大地を駆け抜けた彼らの、何回目かの話をね」
刻碑暦998年10月下旬

 ウィルフレドはいらついていた。つい先ほどの戦闘での事。
突出しすぎたベルナが敵の攻撃をまともに受けそうになったのだ。
幸いすんでの所で捌き反撃、戦闘も無事に終わったのだが……

「ねえ、ウィル!もうそんなに怖い顔しないでよー」

ウィルフレドは返事をしない。

「うー、ちょっと無茶なことしたのは謝る……
けど!あたしにはウィルの方こそ無茶してるように見える……戦って、戦って、
いつかその先で燃え尽きて消えちゃうような気がして、見てられなかったんだよ!?」

「……俺の事はどうでも良い。お前、その体は誰のものだ?」

「それは……フィオナの体だけど……」

「分かってるならもう勝手に戦いについて来るのはやめろ」

そう言い放ち、歩を早める。

「あ、ウィル!待ってよー!」


 彼がいらついているのは何もベルナのせいだけではない。
先頃の中盤戦にウィルフレドも駆り出されたが、報酬としてワルドナールから提示されたものがフィオナを元の体に戻す方法だった。
しかしその方法は彼にとって到底受け入れられるものではなかった。

魔眼の力を使え……

 答えは自分自身の中にあったのかと拍子抜けもした。
幸い今の自分なら魔眼のコントロールにも慣れてきている。
では魔眼を使った結果どうなるのか。

「シンプルよ。フィオナの体から魔獣――ベルナが消え去るだけ。それで元通り。」
ベルナが消える……そう聞いたウィルフレドの胸が何故かざわつく。

――フィオナに巣食う忌々しい存在、そいつが消えるなら何も問題ないじゃないか……

それなのに、彼はベルナが消えるという結果を拒否していた。
どうしてなのか自分でも分からない。
いらついた。自分自身に。所詮は他人事と透けて見えるワルドナールに。
赤の王の拠点を去る際、ワルドナールはこう言った。

「あなたが使える駒であるうちはまた利用させてもらうわよ。
マッカも悠長な事を言っていられる状況じゃないの」

その言葉がウィルフレドをさらにいらつかせたのだった。


「お帰り。ん?どうした2人とも、また喧嘩か?」

テントの留守を守っていたクレイがやれやれといった顔で出迎える。
ベルナはクレイを見るなり泣きそうになりながら笑う。
そんな様子を見てクレイは何かを察してため息をつく。

「なあウィル、ベルさんだってお前を思いやってだな……」

「うるさいな!俺の事はどうでも良いんだよ!クレイ、お前だって分かっているだろう!
いくら戦う力があったってコイツの体はフィオナのものに違いないんだよ!
何なんだ、いつもいつも戦いにノコノコついてきて!
お前が死んだらフィオナも死んでしまうんだ!もう本当にいい加減にしてくれ!」

見たこともない剣幕で感情を爆発させるウィルフレドにさしものクレイも少したじろぐ。

「ま、まあ落ち着けよ。すまない、少し無神経だったな」

「……いや、俺の方こそすまなかった。今日はもう寝るよ。……ベル、お前も早く寝ろ。
フィオナが疲れるからな」



「ふう」

寝る前に少し頭を冷やそうとウィルフレドはテント近くのオアシスに来ていた。
水面には満月。

「フン、月は苦手なんだよ」

自嘲気味に呟くと、先ほどベルナを気遣うような言葉をかけた自分を振り返る。

「何でなんだろうな。アイツの事、あんなに鬱陶しかったのに最近はまんざらでもないなって思っちまう時がある」

「何でだと思う?」

と、すぐそばの木陰から人懐っこい少年の声がする。

「!……誰だ?」

「誰だろうね。僕の事は良いじゃない。ねえ、さっきの事、自分では何でだと思ってるの?」

「分からない……俺はアイツを、アイツとどうしたいんだ……
って得体の知れないガキに答える事はないぞ」

「ふーん、そっか。本当は分かってるのに認めたくないだけなんだね。
めんどくさいなぁ。
そういうのガラじゃないのにあんまり強がらない方が良いよ?ウィルフレド」

と、少年がウィルフレドの名前を口にする。

「どうして俺の名前を?俺が食料を分けている家の子供か?」

「違うよ。そうだね、姿を隠して話すのはやめるよ」

そうして木陰から姿を現した少年の姿を見てウィルフレドは息を呑んだ。

「お前……!」

マッカには似つかわしくない服装、首に巻いた赤いマフラー、そして自分と同じ獣顔……

「何だ、俺は夢でも見ているのか」

少年の姿はどこから見ても幼い頃の自分そのものだった。

「夢じゃないよ。僕はウィルフレド。かつて君であった何かさ」

「かつての俺……?はは、まさか過去から来たなんて言うんじゃないだろうな?
言っておくがガキの頃の俺はお前みたいに生意気じゃなかったぞ」

「過去と言えば過去だけど……今はその話じゃないよね。
ねえウィルフレド、君は僕なのにどうしてそんなに素直になれないのかな。
ベルは良い子だよ?
いつも君や、フィオナの事を思いやって、そしてままならない自分の存在を責めて、
消えてしまいたいって思っている」

「分かってる。アイツが邪悪なモノじゃないって事は。
でも、そんなに簡単に受け入れたらフィオナの存在を否定する事になっちまいそうで怖いんだ!」

言いながら頭を抱えるウィルフレド。

「大丈夫、そんな事でフィオナはすぐに消えてしまったりはしないから。
本当は今だって臆病で泣き虫の癖に無理して気を張らなくて良いんだよ?」

「な……誰が臆病で泣き虫だと?」

「はは、冗談だってば。ウィルフレド、勇気を出して、ベルを受け入れてあげて。
僕にだって受け入れることができたんだ。君にもできる。
僕は遅すぎたけど今ならきっと大丈夫。ベルも……そしてフィオナの事も守ってあげて。
僕にはもうできない事だからね」

そう言って少年は初めて寂しげな表情を見せる。

「今すぐには約束できないが……そうだな、できるだけ早くベルを受け入れられるように努力するよ。
ところでお前は本当に何者なんだ?」

「ありがとう。僕の本当の正体?それはルールで言っちゃダメなんだよね。
僕に言えるのはかつて君であった何か、それだけさ。
……そろそろ戻らないと。できればこっそりフィオナとベルの顔も見て行きたかったけど仕方ないか。
後は君に任せたから、頑張ってね!ウィルフレド!」

そう言うと少年は再び木陰に入って行った。
後を追うがそこに姿は無く、始めからウィルフレド一人しかいなかったかのようだ。


 テントに帰ると既にベルナもクレイも床に就いていた。
ウィルフレドはベルナの傍に行くと寝具をかけ直す。
眠りに就くまで泣いていたのか、目の下が少し赤かった。
昼間はずっとベルナが表に出ていたので朝になればフィオナに入れ替わっているだろう。
そっと髪を撫でると「ごめんな」と呟く。

「う……ん……あれ、ウィル?お帰り……」

起こすつもりはなかったが目が覚めてしまったようだ。
ウィルフレドは優しく返事をする。

「ああ、ただいま」
 
マッカの月夜は穏やかに更けていった。
スポンサーサイト

Trackback

Comment

Post a comment

Secret



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。