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【第八期エピローグ前編】ぶざまでも、生きろ

 無数の本棚が整然と並べられた図書館らしき場所。
中央は広場のようになっていて小さなテーブルと椅子が備え付けられている。
そこに黒衣を纏った少年が一人。

「やあ、また来たんだね。ちょうど新しい話を仕入れたところなんだ。
これは8度目の赤い大地を駆け抜けた彼らの、“表”の結末。
見ていくならそこに座りなよ。興味がなければ引き返せば良い。
……そうかい、それじゃあ沈み行く赤の国で彼らがどんな決断をしたのか。
始めよう、終わりの話をね」

刻碑暦1000年1月

3年間にわたって続いた5国間の戦争が終わった。
マッカの大地は疲弊し、フェネクスの暴走によって残された傷跡も未だ生々しい。
だが、それでも人々は生きている。

「ウィル、これからどうするんだ?」

クレイが尋ねる。

「ん?ああ……」

ウィルフレドは気のない返事をする。

「もしウィルさえ良ければオーラムに帰らないか?」

「俺が?一部のお偉いさんには危険人物扱いされてるって話じゃないか。
そんな所に帰っても今度こそ厳重な監視を付けられるか、最悪消されるんじゃないか?
冗談じゃないね」

「そこは俺が何とかするよ。なあ、考えてみないか?」

「いくらエリート様のお前でもそんな発言力あるのかね。
大体お前、たぶん向こうじゃ裏切り者だと思われてるだろ。
この前話してくれたお前がここに来た目的が本当ならさっさと俺を消せば良い。
そしたらお手柄汚名返上だ、お前だけでも帰れるぜ」

ウィルフレドが皮肉めかして言う。

「ウィル……」

「クレイ、すまんが俺は帰る気はないよ。
最後の戦いまで付き合って、俺なりにこの国への思いもできた。
気の良い仲間もできた。何より、ここで懸命に生きる人たちの力になりたいって思うんだ」
そう言って空を仰ぐ。

「ただの偽善かもしれない。自己満足かもしれない。
もしかしたら手の届く範囲すら守れないかもしれない。
それでも、俺はこの国を知ってしまった。
だからオーラムに帰ってぬくぬくと暮らすことはできないよ」

曇りのない決意。それは例え親友と言えど曲げられるものではなかった。
と、そこに2人を呼ぶ声。

「2人とも、夕食ができたわよ。」

「あ、ああ、フィオナか。ウィル、とりあえず食事にしようか」

「今日はいつもより腕を振るったから、期待して良いわよ」

明るくフィオナが言う。

「そうか、それは楽しみだな」

そして3人は食卓についた。

「お、これは懐かしい。子供の頃よく食べてたな」

「何言ってるんだウィル、お前はこれが嫌いでおばさんに
『食べ終わるまで遊びに行っちゃダメ』
ってしょっちゅう言われてただろ」

「ハハ、そうだっけ?おふくろの味って感じで今は好きだぜ、これ」

「ウィル、私が作ったものはおばさま直伝なのよ?ありがたく食べるのね」

フィオナが冗談めかして言う。

「そいつは涙が出るね、まったく」

温かな食事の風景。いつまでも続けば良いとウィルフレドは思う。

「……なあフィオナ、俺はもう少しマッカに残ろうと思う。
その、この国のために何か出来ることはないかなって最近考えるようになってな。
まあ、何だ、良かったらフィオナにも一緒に手伝って欲しいかなぁ、なんて。
もちろんお前とベルを助ける方法も探す。それが最優先だけどな」

「そう、良いんじゃない?出来ることなら私も協力する。と言っても家事くらいしか出来ませんけどね」

「いや、十分だよ。ありがとう」

「それからね、私とベルの事だけど、たぶんもう大丈夫だと思うの。
最近はベルが私の体を侵食している感覚もないし、ベルも同じような事を言っているし。
体の調子も良いのよ?だから大丈夫」

「それは初耳だな。本当に大丈夫なのか?」

「自分たちの事は自分たちが一番よく分かってるんだから信じてよね」

「……一応信じるが、しかし不便じゃないか?2人で1つの体というのは」

「大丈夫、もう慣れたものよ。ところでクレイ、あなたはこれからどうするの?」

と、フィオナは話題を変えるようにクレイに尋ねる。

「俺は……」

そう言ってクレイはしばらく沈黙する。

「オーラムに帰るんだろ?さっきあんな話を持ちかけてきたって事はアテがあるんだろうし」

「そうなの?それは寂しくなるわね」

「いや、勝手に決めないでくれよ。俺は……」

「お前はお前の生きたいように生きろよ。俺たちは大丈夫さ。
今は向こうも大変みたいだし、少しでも故郷の力になってほしい」

「ウィル……すまない、考えさせてくれ。少し外に出てくるよ。先に休んでいてもらって構わない」

「分かった。気をつけてな」

クレイがテントから出て行き、ウィルフレドとフィオナの2人だけになる。

「それにしても私がここに来てからもう3年近く経つのね。
ふふ、あなたと再会した時は驚いたのよ?子供の頃とまるで雰囲気が違うんですもの」

フィオナが懐かしそうに笑う。

「そうか?まあ、旅をしている間に色々あったからな」

「でもね、ずっと一緒に過ごして分かった。纏う雰囲気は違っても、誰よりも優しい本質は変わらないって」

そう言ってウィルフレドの隣に来てもたれかかる。

「お、おいおい。何だよ急に……」

「少し酔ったみたい。ウィル、あなた、暖かい。ベルも言っているわ。あなたが大好きだって」

「フィオナ、俺は……俺も……」

言いかけた所でフィオナの寝息が聞こえ始める。
フィオナの体を受け入れたままそっと髪を撫でる。
そうしている内にウィルフレドにも心地よい睡魔がやってくるのだった。

――フィオナ、僕も君の事が大好きだ。だから、どうか消えてしまわないで……

そして砂漠の夜は更けていく。



翌朝。

「昨夜は2人ともお楽しみだったようで」

クレイが冷やかすように言う。

「いや、その、違うんだ。違うんだよ!」

慌てて弁解するウィルフレド。

「子供じゃあるまいし、今更何を照れる事がある」

「え?何々?あたしが寝てる間に楽しい事があったの?」

「ベル、何も無かったから気にしなくて大丈夫だぜ!」

なぜか親指をグッと立てつつ言う。

「ふーん。でも目が覚めたらウィルとぴったりくっついてたから少しびっくりしちゃったよ」

「あ、ああそうだ!そういえばクレイ、答えは出たのか?これからどうするか」

「ああ、俺ももう少しマッカに残る事にしたよ。いずれはオーラムに帰るつもりだけどな」

「そうか。それなら改めてこれからもよろしく頼むよ」

「ええ!クレイ、帰っちゃうの?」

「いや、ベルさん、すぐに帰るわけじゃないから」

「そっかぁ。良かった」

「うん、良かった良かった。という訳で今日から新しい仕事だぜ!」

「仕事?」

「まあ早い話が何でも屋だな。今日は居住用テントの修繕が3件だ」

「いつの間に……まさかお前にこんな行動力があったとはな」

感心したようクレイが言う。

「俺はやる時はやるんだよ。よし、ベル、行くぜ。クレイも付き合えよな」

「もちろん」

そうして荒野に踏み出す3人の表情は明るく、前を見据えている。

ぶざまでも良い、いつか終わりが来る日まで命に火を灯して生きる……そう決めたのだから。

 
 

再び図書館らしき場所。

「これが刻碑暦1000年1月の出来事。中々ハッピーエンドだね。
だけど……その先がハッピーだとは限らないよね。
もし興味があるならまたここにおいでよ。
何回か来るうちに続きが読めるようになっているかもよ?
いつでも待っているからね」

そして黒衣の少年――フェイブルはあなたを見送る。
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