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【第八期エピローグ後編】ロード・オブ・ゴールデンウルフ

 無数の本棚が整然と並べられた図書館らしき場所。
黒衣の少年“フェイブル”があなたを出迎える。

「やあいらっしゃい。わざわざまたここに来たって事はハッピーエンドの続きをお望みかな?
それなら見ていくと良いよ。これが“次”に繋がる本当の結末さ。じゃあ始めよう」

刻碑暦1000年4月

 ウィルフレドたちが何でも屋を始めて早くも数ヶ月が経とうとしていた。
仕事も軌道に乗りそれなりに依頼も入るようになった。
テントの修繕に始まり、家事、ラクダ牧場の手伝い、失せ物探し、果ては狩り代行など。 報酬は依頼主の気持ち程度なので決して稼ぎが良いとは言えないが、
それでも彼らは充実していた。そんなある日の早朝。

「ウィル、今日の仕事は?」

クレイが尋ねる。

「ここから少し西のオアシスの孤児院かな。ガキどものお守りさ。
今日は俺とフィオナの2人で行くから、クレイは留守を頼むよ」

「分かった。気をつけてな」

「ふふ、ウィルったらすっかりあそこの子供たちに懐かれちゃって。
クレイにも見せてあげたいわ」

「そうなのか。俺はあまり子供に好かれない性質だからなぁ」

「そんな事ないと思うぜ。まあ、その内クレイにも行ってもらおうかな」

悪戯っぽくウィルフレドが言う。

「よし、じゃあ行って来る。日が沈む頃には戻ってこられると思う」

「ああ、行ってらっしゃい」


 オアシスの孤児院は元々飢えで親を亡くした子供や戦災孤児を引き取っていたが、
フェネクス暴走により親を亡くした子供が一気に流れ込んで来たので現在人手不足に陥っている。
マッカの富裕層が経営しているため食料などの心配は当面ないのが幸いではある。

「あ!狼のお兄ちゃんだ!」

ウィルフレドたちが到着するとすぐに子供たちの1人が気付く。
それが合図となり子供たちが一斉に2人を取り囲む。

「お兄ちゃん何してあそぶ?」「お姉ちゃんたくさんおはなし聞かせて!」
「狼おじさんいらっしゃい!」「わおーん!」

といった具合だ。

「ハハハ、お前ら今日も元気だな」

「うん!ねえねえアレやってアレ!」

と、1人の子供がウィルフレドにせがむ。

「いきなりアレか?しょうがないな」

ウィルフレドは咳払いを1つしたかと思うと、爪を立てた両手を振り上げ、

「お前ら全員、俺様が食っちまうぞおおおお!」

と吼える。
それを見た子供たちはそれぞれに

「きゃーこわーい!」「がおー!」「カッコイー!」「アクの狼男だ、やっつけろー!」

などと全く怖くなさそうに言うのであった。
と、そこに孤児院のスタッフがやってくる。

「はーい皆さん、お水を飲む時間ですよ。こっちに集まってくださいね」

「ああ、悪いな姐さん、挨拶もなしに始めちまってて」

「いいえ、ウィルフレドさん、フィオナさん、いつもありがとうございます。
あなたたちが来るようになって子供たち、『次はいつ会える?』ってそればかり。
それまで全く笑わなかった子も今ではすっかり明るくなって、本当に何とお礼を言って良いやら」

「そんなにかしこまらないでくれよ。俺たちだってタダでやってるわけじゃないんだしな。
それにさ、こういうの結構好きなんだ」

「本当に、本当にありがとうございます」

スタッフがさらにかしこまった調子で頭を下げる。
それを見てウィルフレドとフィオナはやや苦笑気味に顔を見合わせた。
話をしている内に水を飲み終わった子供たちがいつの間にか2人の周りに集まっている。

「よしお前ら、外で元気に遊びたいやつは俺、
中でおしとやかに過ごしたいやつはフィオナについて行け!はい、分かれる!」

ウィルフレドの合図で子供たちは2つに分かれる。
そうして時間は過ぎ、昼食、やがて昼寝の時間になっていた。


「ふう、やっと寝たか」

「今日はいつもに増してみんな元気ね」

「あんまり元気すぎるのも考え物だぜ」

まんざらでもなさそうにウィルフレドは言う。

「俺たちも休憩するか」

「そうね」

と、外の方がなにやら騒がしい。

「困ります!何ですかあなたは!あっ!」

女性スタッフの声。 何事かと2人は外に出てみる。
そこには突き飛ばされたのかへたり込む女性スタッフと、
そして――

「久しぶりだな、ウィルフレド」

大柄な黒髪の男が1人。

「ガイセイ=フェアフィールド……!」「おじさま!」

ウィルフレドが憎々しそうに口にしたのは父親の名。
彼は敢えて男を父とは呼ばなかった。

「口が利けるんだな。とっくにただの化け物に成り果ててたかと思ってたぜ。
……何しにきた。いや、今まで何をしていた?」

ウィルフレドの問いにガイセイは淡々と答える。

「共に生きるに値するか……ね。アンタは人間と一緒に暮らしたいんじゃなかったのかよ。
何だって今更そんな事言ってるんだ」

「衝動だ。衝動が俺に『人間を見ろ』と言うのだ。だからそれに従った」

「まさかあの時村を襲ったのも衝動だって言うのか?」

「そうだ。抗うことの出来ぬ曇り無き真理に従ったまで」

「ふざけるなよ!アンタのせいで、俺の右目はこんなになっちまった!
フィオナだって普通の体じゃなくなっちまったんだぞ!」

と、声を荒げるウィルフレドを無視してガイセイはフィオナに歩み寄る。

「お、おじさま……?」

ガイセイの目はフィオナを見ていない。

「宿魔よ、問おう。お前は何を考えて“そこ”にいる?」

ガイセイがそう言い終わるといつの間にかフィオナからベルナに入れ替わっている。
ベルナは状況を把握しているのか動揺した様子も無い。

「あたしは……あたしは、ウィルやフィオナと生きたい!それだけ……です!」

「ふむ、そうか。やはりまだ我らの本分に目覚めていないか。
ならば思い出せ!そして俺と共に来い!」

ガイセイの双眸が金色に煌く。
途端にベルナが頭を抱えて苦しみ始める。

「あ……いや、違うの……やめて!あたし……は!」

「ベル……?おい!しっかりしろ!お前、コイツに何をした!」

「何、ヒトの肉体という檻から解放してやるだけだ」

「な……!クソッ、おいベル!こんなヤツに負けるな!ベル!」

ウィルフレドの呼びかけも今は聞こえない様子でベルナは苦しんでいる。

「これがお前の望みなのだろう?宿魔が解放されればフィオナは元の体に戻る。
ならば良いではないか」

「違う!確かに最初はコイツが疎ましかった……だけどコイツはもうフィオナにとって
“呪い”なんかじゃない!一緒に生きていけるんだ!」

「我が息子ながら愚かな……ふむ、そろそろだな」

ガイセイが見上げる。その先には――

「おい……嘘だろ?これが、ベルなのか?」

 それは美しい獣だった。
しなやかな体躯、輝く白銀の被毛、緩やかにたなびくたてがみ……
これこそが“魔獣”ベルナの真の姿だった。
獣の前には元に戻ったらしいフィオナが座り込んでいる。

「フィオナ!」

「ウィル……ベルが……これがベルなの?」

獣は微動だにせず、そこに鎮座したままだ。
ウィルフレドは何も言えない。
そこに孤児院のスタッフの声。

「ば、化け物!」

おそらくベルナの事を言っているのだろう。
ウィルフレドは心が痛かった。

「騒がせてすまない。ここから少し東に俺のテントがある。
ガキども連れてそこに行っててくれ。そのくらいの人手はあるだろ?」

スタッフは無言で頷くといそいそと孤児院の中に入って行った。
しばらくして支度を終えたスタッフと子供たちが出てくる。皆、不安げな表情だ。

「ここから少し東のオアシス近くのテントと言えば分かるか?
そんなに遠くないから迷わないはずだ。気を付けてな」

「お兄ちゃん……」

子供の1人が不安そうに言う。

「大丈夫だ。また遊ぼうな」

安心させるように頭を撫でてやる。

「おい、フィオナも一緒に行け」

「でも、ベルを置いて行けない!」

「……そうだったな。ならそこのオアシスで待っててくれ。危なくなったら逃げろ」

フィオナは頷くとオアシスまで退避する。

「終わったか?力無き者を逃がして、まさか俺と戦うつもりか?」

静観していたガイセイが言う。

「そのまさかだよ!クソ親父!」

そう吼えると大地を蹴りガイセイに突撃する。
ガイセイは連続するウィルフレドの爪撃を造作も無く避ける。

「アンタはベルをどうするつもりだ!」

「共に行き、人間を狩る。それだけだが?」

「ベルが!そんな事するかよ!」

ウィルフレドの一撃に金色の光が乗り、ガイセイを吹き飛ばす。

「おいベル!俺だ、分かるか?あんなヤツの言う事なんか聞くな!」

だが獣は何も答えず、そこに静かにいるだけだった。

「無駄だ。そいつはもう俺の言葉しか聞き入れない」

既に体勢を立て直したガイセイが言う。

「人間を狩る……ってどういう事だよ」

「失望しただけだ。“どこの世界”でも人間は争ってばかりで自ら緩やかに滅ぼうとしている。
それならば窒息する前にいっその事すぐにでも息の根を止めてやれば良い。
そう思ったのさ」

「神にでもなったつもりかよ。大体アンタ1人でそんな事できると思ってるのか」

「造作もない。しかしお前がそこまで力を使いこなせるようになっていたとはな。
ならば俺も少し本気を出すとしよう」

ガイセイの皮膚を獣の体毛が覆い、獰猛な狼の顔貌へと変わっていく。

「さあ全力で来い、ウィルフレド」

「言われなくても!」

再び戦いの火蓋が落とされる。
そんな2人の死闘をフィオナは見ている事しか出来なかった。

「ウィル……おじさま……あんなに仲が良い親子だったのにどうしてこんな」

そこにウィルフレドが吹き飛ばされてくる。その体は傷だらけだ。

「ウィル!」

「フィオナ……げほっ、もう逃げろ……!」

「そんなものか。やはりお前は半端者だな。そろそろ楽にしてやろう」

ガイセイはウィルフレドの頭を鷲づかみにしたかと思うとそのまま持ち上げる。

「さらばだ、愚かな息子よ」

「いや……お願い……おじさまやめて………もうやめて!」

フィオナが叫ぶ。そこに獣の咆哮と共に風が走り、ガイセイがよろめく。

「ベル!」

「むう、お前まだ自我が……!」

ガイセイの手から離れたウィルフレドを支えるフィオナ。

「く……ベルが助けてくれたのか」

「グルルル……」

対峙する獣とガイセイ。

「良いだろう、仕込みなおしてやる!」

そう叫ぶとガイセイの姿がさらに変化していく。
もはやヒトの形ではない金色の被毛を持った狼。
あの日、ウィルフレドの村を襲った獣の姿に。
そして今度は2体の獣同士の戦いが始まる。

「よせ、ベル!」

と、ウィルフレドとフィオナの耳に声が響く。ベルナの声だ。

『ウィルとフィオナはあたしが守ってあげる。
たぶんあたしはここでお別れ。だけど悲しまないで、忘れないで。
いつかきっとまた、すべてが巡った先で会えるから』

「何だよ……お別れって何だよ!ベル、もう良い!下がれ!」

そんな叫びも空しく、2体の戦いは止まらない。
金狼が、ベルナの首筋に噛み付く。美しい毛皮が赤く染まっていく。
だがベルナもすぐに噛み付き返す。

「いや……ベル!」

「やめろ、もうやめろおおおおお!」

ウィルフレドが自分の傷の痛みも忘れて走り出す。
眼帯を外し、魔眼が露わになる。金色が迸り剣の形を成していく。
そしてベルナに気を取られているガイセイに光の刃を振り下ろす。

『そうだ、それで良い』

一瞬、かつての穏やかな父の声が聞こえた気がした。


 戦いは終わった。
倒れているのはヒトの姿に戻ったガイセイと……ベルナ。

「ベル……痛くないか?」

ウィルフレドはそっとベルナの頭を撫でてやる。
それで傷の痛みが紛れたのかベルナは目を細める。

「いや、お願いベル、死なないで……」

フィオナは号泣している。

「また、会えるんだよな。信じて良いんだよな。ベル」

その問いに応えるようにベルナは顔を上げると遠吠えのような声をあげた。
そしてそれが最後だった。その体から光の粒子が舞い、世界に解けて行く。

「またな、ベル……フィオナ、帰ろう。クレイやガキどもが待ってるぜ」

「……そう、ね。ウィル、おじさまは……どうするの?」

言われて倒れているガイセイに目をやる。

「父さん……何だよ、何が『それで良い』んだよ」

「きっとおじさまはウィルに止めて欲しかったのよ。そういう事で良いじゃない」

「そうか。そうかも、しれないな。そう思う事にするよ。」

「ええ。……じゃあ、帰りましょうか。ウィル、私ベルの事絶対に忘れない」

「ハハ、忘れられるわけないだろ。いつかまた会える。アイツはそう言っていた。
だから今は信じよう」

そうして2人は帰路につこうとした。その時――

ソウダ、コレデイイ

「!」

「ウィル、今の!」

瞬間、金色の獣がフィオナを切り裂く。
急激に時間が緩やかになった。
ウィルフレドはそんな感覚に襲われながら倒れていくフィオナを見ていた。

ガイセイか?いや、そうではなかった。ガイセイの亡骸はそこに横たわったままだ。
ならばこれは一体……

「フィオナ!」

「ウィル……ごめん、ね……」

弱々しく言うとフィオナは息を引き取った。 

ソウダ、コレデイイ、我ハ使命ヲ思イ出シタ!人間ヲ見ロ、人間ヲ狩レ!

「……なんだ」

獣がウィルフレドの腹部に深々と爪を突き立てる。
だがウィルフレドは動じない。
魔眼が金色に輝き始める。左目も今や魔眼へと変容していた。

「何なんだ……」



お前は一体、何なんだあああああ!

 


叫びの中で金色が、周囲の世界を呑み込んでいく。
やがて金色はおさまりそこには始めから何も無かったかのように静寂の荒野が広がっていた。




「お兄ちゃんたち、遅いね」

「あのおじさんにやられちゃったのかな」

「違うよー!また遊んでくれるって言ってたもん!絶対帰ってくる!」

子供たちはそれぞれにウィルフレドたちの身を案じている。

「みんな、夕食が出来たよ。こっちにおいで」

「あ、クレイおじさん!狼のお兄ちゃんたち、帰って来るよね?」

「お、おじ……ああ、きっと帰ってくるよ。
だからまた一緒に元気に遊べるように栄養を付けような」

「はーい!」

(ウィル、お前は……いや、まさかな)

不穏な考えを払拭し、クレイは思いのほか懐いてきた子供たちに振り回されるのであった。

沈みかけの夕日が世界を黄金に染め上げていた。



 そして再び図書館のような場所。

「これがこの期における彼らの本当の結末。
幸せの先にあるものがまた幸せとは限らない。残念だけどそういう事さ。
さて、次の周期が始まるまで僕には何も語ることは無いよ。気を付けて帰ってね」

そう言ってフェイブルはあなたを見送る。

「しかしこの“ウィルフレド”はここに来なかったね。直接“次”に飛んだみたいだ。
まあどうなるか一緒に見届けようじゃないか。ねえ、ウィルフレド?」

いつの間にそこにいたのか、獣人の青年が静かに頷く。

「……束の間の夢の中で今は眠れ、見えざる眼光よ。その先に君が望む答えはあるのだから」

                  第8期「ロード・オブ・ゴールデンウルフ」 完


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